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福良浜

 地層の積み重なりと様々な構造
 海女の更衣所から荒磯遊歩道を北東へ向かって 300m ほど歩くと,福良浜が見えてきます(写真1)。福良浜はレキ浜(石ころの浜)です。れき浜の背後の崖には,複数枚の地層の積み重なりがみられます。下位から,レキ岩層・凝灰岩層・レキ岩層・砂岩層・レキ岩層・火山角レキ岩層の順で重なっています(吉澤,1991;安野,1994)。直接これらの地層から年代値は得られていませんが,周囲の火山岩とほぼ同じと考えられます(1300万年~1400万年前,東野・清水,1987;中島ほか,1990)。これらの地層が堆積した当時,周辺では火山の活動が活発だったということです。荒磯遊歩道から階段で福良浜へ下りると,写真2~8のような地層や構造を観察することができます。
  写真1.荒磯遊歩道から見た福良浜.れき浜の背後の崖には地層の積み重なりが見える 

 福良浜で観察できる主な地層は,凝灰岩・レキ岩・砂岩層です(写真2)。主な観察ポイントを以下に示します。
・黒曜石:
 レキ岩層には,「黒曜石」のレキが含まれています(写真3)。黒くてガラスのような光沢をもった美しい石です。その他,安山岩・砂岩・チャート・凝灰岩など,様々な種類のレキが含まれています。福良浜の石ころの種類は,このレキ岩層のレキの種類とほとんど同じです。石ころの大部分は安山岩で,まれに珪化木(木の化石)なども見つかります。
・断層:
 崖をよく見ると,凝灰岩層・レキ岩層・砂岩層を斜めに切る断層があることがわかります(写真4)。特にレキ岩層と砂岩層が断層を境にずれているのがよくわかります。
  写真2.下位から,凝灰岩層(白っぽい層),れき岩層,砂岩層.

  写真3.れき岩層中に含まれる黒曜石れき.
  写真4.凝灰岩層,れき岩層,砂岩層を斜めに切る断層.

・火山豆石:
 凝灰岩層をよく見ると,複数枚の薄い層からなることがわかります(写真5)。その中に,数mm~数cmの大きさの白くて丸い粒が含まれています。これらは「火山豆石(かざんまめいし)」と呼ばれるものです(写真5,6)。火山豆石のでき方は様々で,ここの火山豆石のでき方についてはよくわかっていません。しかし火山豆石の断面が同心円状の構造を示す(写真6)ことから,爆発的な噴火で生じた火山灰が雨滴や氷の粒に付着し,雪だるま式に成長した,ということが1つの可能性として考えられます。この地層が堆積した当時は周囲で活発な火山活動があったため,その噴火活動に伴ってできたものなのかもしれません。
・スランプ構造:
 凝灰岩層を崖に向かって左の方へ追っていくと,グニャリと乱されたような構造が確認できます(写真7)。この構造は,地層がまだやわらかいうちに何らかの原因で大きく乱され,変形したことを物語っています。地層が完全に固まって岩石になった後では,このようにグニャリと変形することができません。地層が固まる前に水底で地すべりなどが発生すると,地層が乱されて,このような構造ができることがあります。「スランプ構造」と呼ばれます。この地層が水中で堆積していた当時は周囲で活発な火山活動があったため,その影響で地すべりが発生してできた構造なのかもしれません。
  写真5.凝灰岩層に含まれる火山豆石.

  写真6.凝灰岩層に含まれる火山豆石(接写).
  写真7.凝灰岩層にみられるスランプ構造.

・波による侵食:
 崖に向かって左の方へ地層を追っていくと,「夫婦岩(めおといわ)」と呼ばれる2つの離れ小島があります(写真8)。夫婦岩にも地層の積み重なりがみられ,下位からレキ岩層,凝灰岩層となっています。2つの小島のどちらにも同じ地層の縞模様が見られます(夫婦岩というだけあって仲良くペアルックです)。この地層の縞模様は,福良浜の崖とも同じです。写真8の場所で,レキ岩層と凝灰岩層の境界に着目してみましょう。夫婦岩と福良浜の崖は海で隔てられていますが,これらに共通して見られるレキ岩層と凝灰岩層の境界はほぼ同じ傾きを持っており,元々は連続していたということがうかがえます。つまり,福良浜の崖と夫婦岩は元々つながっていたのですが,波による侵食などによって現在のような形になったと考えられます。
  写真8.夫婦岩(写真の左半分にある2つの小島).


引用文献
東野外志男・清水智(1987)福井県三国海岸に産出する火山岩類のK-Ar年代.石川県白山自然保護センター研報,14,25-30. LINK
中島正志・沢田順弘・中川登美雄・林昌代・板谷徹丸(1990)福井県北部新第三系のK-Ar年代と古地磁気―西南日本ブロックの回転に関して―.岩鉱,85,45-59. LINK
安野敏勝(1994)福井県三国町の地質と野外観察.高志高等学校研究集録,22,1-23.
吉澤康暢(1991)福井県三国町米ケ脇累層の岩相層序と堆積環境.三浦静教授退官記念論文集,p.35-42.